声劇/シュークリーム論争 のバックアップ(No.1)
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ここは、どこにでもある論争家族のリビング。父はつまみを手にビールを飲んでいる。脱衣所からは長女の使うドライヤーの音がかすかに聞こえる。そろそろ長女がこちらに来る頃だろう。いつもの様に、穏やかに1日の終わりを迎えると思っていた。
……長女が冷蔵庫を開けるその時までは。
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PC1:父
PC2:娘
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PC2:「あー。私のシュークリームがない!どこどこ!?楽しみに取っておいたのに!」
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PC1:ほろ酔い気分の父の背中に緊張が走る。
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PC2:「あー。私のシュークリーム、お父さんがたべた。ひどい!」
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PC1:「それって早計な判断じゃね?」
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PC1:父親のとっさな返事はかつて培った論争スキルのエッセンスがあふれる最強の一言だった。娘の呆気にとられた顔をよそに、矢継ぎ早にまくしたてる。
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PC1:「まず、お前のシュークリームはお母さんが食べてしまって、今父さんがシュークリームはお父さんが買ってきたものの可能性は排斥できないよな?」
「それから、もし、お前が買ってきたとしても、お父さんのお金で買ったんだったら、それはお父さんの物と言えるんじゃね?」
「仕事終わりのお父さんの至福のひと時を邪魔するおまえの発言のほうが人間的にひどいんじゃね?」
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PC2:父親の心のない言葉に、私の中の闘争心に火が付いた。
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PC2:「お母さんが食べた可能性…? 目の前に私が買ってきたシュークリームと同じ包装紙が落ちていて、口の周りにクリームがついたブタがいるにもかかわらず、心の優しいお母さんを疑えですって?ブタなのは見た目だけかと思っていたけど、中身までブタになったのかしら、このブタは。」
「それに、あんたのお金で買ったとか言いましたけど、私がアルバイトでためたお金で買ったシュークリームですけど。だいたいね、あんたの安月給じゃシュークリームなんて買えないのよ。稼ぎのないブタなんて、ただのブタじゃない。偉そうな口きいてるんじゃないわよ!」
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PC1:「あー。ほらほら、また早計な判断だ。俺がいつおまえにお母さんを疑えと命令したんだ? また早計な判断だねぇ。お前、将来早川さんと結婚して、早川けい子になっちまうんじゃねぇの?」
「ああ、早川さんは、自分のお金で買ったとか言ってましたっけ。こっちがお前の養育費にいくら使ったかわかってんの?お前の安っぽいアルバイトじゃ自分の養育費の足しにもならねえよ。」
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PC2:「この腹黒ブタは、とんでもないことを言い出すわねぇ。だいたい、私のアルバイトが早川っていう名前の素敵なおじさまからお金を貰うアルバイトだっていう可能性をいつ排斥したのかしら?」
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PC1:「あー。その口の悪さも、貞操観念のなさもどこで覚えたものかね。このくそ娘は。ああ、くそ娘じゃないか。お前の論でいったら、お前はくそブタ娘だったな。だから、こうも文句をブーブー垂れるのか。」
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PC2:「あら、頭のわるいこのクロブタちゃんは、遺伝っていうものをご存じないのかしら。口や性格が悪いのは、全部自分のオーク遺伝子によるものだって気づいてないのかしらね。」
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PC1:「また、早計おつー。お前がいつ俺の娘だって断定したんだ?」
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PC2:「あら、私がいつ、あんたを父親だって認めたのかしら?」
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PC1:次の瞬間、バタンというドアを閉める大きな音が鳴った。閉ざされた家のドアには、『実家に帰ります』と殴り書きされた紙が貼られたあることを、この時の2人はまだ知らない。
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完